設立趣旨

サルコペニア・悪液質・消耗性疾患に対する関心は、世界的に高まりつつあります。高齢社会の進行とともに加齢によるサルコペニアへの関心が高まり、2010年にはヨーロッパ、2014年にはアジアのサルコペニアコンセンサス論文がそれぞれ発表されました。ヨーロッパのコンセンサス論文では、「サルコペニアは、身体的な障害や生活の質の低下、および死などの有害な転帰のリスクを伴うものであり、進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群である」と定義されています。

がん、慢性心不全、慢性呼吸不全など消耗性疾患による悪液質への関心も高まっており、2008年にはCachexia Consensus Working Groupによる悪液質の定義と診断基準が発表されました。悪液質の定義は「悪液質は基礎疾患によって引き起こされ、脂肪量の減少の有無にかかわらず、筋肉量の減少を特徴とする複合的代謝異常の症候群である。臨床症状として成人では体重減少(体液貯留を是正して評価)、小児では成長障害がみられる(内分泌疾患を除外して評価)。悪液質は飢餓、加齢による筋肉量の減少、うつ病、吸収障害や甲状腺機能亢進とは異なる病態で、疾患罹患率を増加させる」です。2011年にはEuropean Palliative Care Research Collaborativeによるがん悪液質の定義と診断基準が発表されました。

2008年には、ヨーロッパとアメリカを中心にSociety for Sarcopenia, Cachexia and Wasting Disordersが設立されました。2010年からサルコペニアと悪液質の専門雑誌であるJournal of Cachexia, Sarcopenia and Muscleが出版されています。2013年12月には、神戸で7th International Conference of the Society on Sarcopenia, Cachexia and Wasting Disorders(大会長:乾 明夫、鹿児島大学大学院心身内科学分野教授)が開催されました。

世界的に関心が高まりつつあるサルコペニア・悪液質・消耗性疾患ですが、日本での関心は高いとはいえないのが現状です。世界と日本に大きなギャップが存在するだけでなく、研究と臨床にもギャップが存在しています。したがって、日本サルコペニア・悪液質・消耗性疾患研究会を設立することにより、日本での定義、診断基準、治療方法などを開発することは、極めて重要と考えます。代謝栄養学、緩和医療学、内科学、外科学、リウマチ科学、薬物学、心理学、リハビリテーション医学、歯科・口腔外科学、生理学、病理学など多領域の研究者および多職種の臨床家が交流できる場として貢献できればと考えています。このような趣旨にご賛同いただきますようよろしくお願い申し上げます。

城谷先生

令和1年8月吉日
一般社団法人日本サルコペニア・悪液質・消耗性疾患研究会代表理事
城谷典保